登場人物

渕上(ふちがみ)賢太郎博士

渕上(ふちがみ)賢太郎博士
モテモテアカデミー及び夢を叶えるアカデミー主宰。数学、生命科学、行動経済学の博士号を持ち、人の心の動きを論理的に解明する。深夜ラジオが好き。

山田君

山田君 
博士を慕う冴えない32歳。博士の教えにより、彼女いない歴=年齢だったモテない人生に終止符を打った。特技はけん玉で地元の大会で優勝経験がある。ローラの突然の人気に驚いている。

 

山田君 博士、ローラのブレイクの秘密がわかりました!!

日本最大級のファッション&音楽イベント「ガールズアワード」に出演したローラ

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital  日本最大級のファッション&音楽イベント「ガールズアワード」に出演したローラ

博士 ローラって、あの、舌をぺろっと出すモデルか。

山田君 そうです。僕は最近、ブレイクを夢見て色々な芸能人を分析していたんですよ。それで気づいたのですが、実はローラは、以前、舌を出していなかったんです!

博士 そうなのか?

山田君 ローラは、以前、日本テレビ『しゃべくり007』に登場して、「前は舌出しをしてなかったんじゃないか」って突っ込まれてました。彼女は「たまたまなっちゃった」って言ってましたけど。
で、番組の中で、舌出しの意味は何なんだ?っていう検証をしてたんです。

その時、ネプチューンの原田泰造さんが、舌出しには絵文字的な意味があるんじゃないかって言っていて、なるほどと思いました。「ペロッ」とか「オッケー」とか「ハーイ」とかが会話の中に入っていると、まるで携帯メールの絵文字みたいですよね。

博士 言われてみればそうだな。

フジテレビ系「笑っていいとも!」の新レギュラーになったローラ

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital  フジテレビ系「笑っていいとも!」の新レギュラーになったローラ

山田君 そしてローラは舌をペロっと出してからブレイクした。僕はこのことを改めて考えていて気づきました。
ずばり言いましょう。ローラのブレイクは、”ローラが携帯世代のコミュニケーションを具現化したタレントだから”です!!

博士 却下する。

山田君 なんで!?なんでなんでなんで!

博士 以前も言ったが、そんな分析は誰もがやっていて、誰も何の成果も出していない。

例えば、『マルモのおきて』が流行ったときに、「震災後の日本人が家族の大切さや心のつながりを求めた結果だ」なんて言っていたが、独身男の元に突然子どもがやってきて、衝突しながらも心を通わせていくという、『マルモのおきて』フォーマットを踏襲し、同じプロデューサーが作ったドラマ『家族のうた』は、ゴールデンタイムの放送にもかかわらず視聴率3%前半を低迷し続け、なんと5月12日には、第8話で打ち切りになることが発表されている。

山田君 それは、震災から1年経って家族の絆とか、そういうものへの関心が薄れてしまったからじゃないですか?

博士 もう後付けの理由にはうんざりだ。『家族のうた』が始まる前にそれを予測できたか?

何度も言うが、ヒットあるいはブレイクする要素はいくつもあり、それらはそれぞれ別々の流れに支配され、かつ互いに複雑に絡み合っている。我々がその全体像を把握し、予測することは不可能だ。

山田君 じゃあどうすれば良いんですか? 

博士 今回は、ランダムウォークに関して話そうと思う。

山田君 そうだ、今回は前回の続きで、ランダムウォークでしたね!

博士 ローラはファッションモデルとしては一部の人に知られている程度だったのに、テレビバラエティで爆発的にヒットした。

大ブレイクしていた恐竜は一瞬で滅びた

大ブレイクしていた恐竜は一瞬で滅びた

彼女が言ったという「(舌出しは)たまたまなっちゃった」というのは象徴的だ。

雑誌というフィールドから“たまたま”テレビに来て、”たまたま”舌を出してみた。すると大ブレイクした。彼女も彼女をマネジメントしている人も、こうなるなんて予測してなかったに違いない。

さて、ブレイクに関して、生物の進化が参考になる。

山田君 どうしたんですか、唐突に。

博士 まあ聞きたまえ。約2億2000万年前から6500万年前まで、哺乳類は恐竜の影におびえながら、ひっそりと暮らさなければならなかった。体はネズミほどの大きさで、恐竜の寝静まる夜だけ、静かに行動をしていたと思われる。その期間は1億5500万年にわたる。

山田君 長い下積み生活ですね。

博士 ところが、6500万年ほど前に、突然地球に隕石が衝突した。一瞬にして環境は激変し、恐竜はその変化に適応出来ずに滅びた。そして、もともと恐竜のいたスペースにぽっかりと空きが生まれ、哺乳類たちは、その空きスペースに勢いよく、さまざまな形に変化しながら広がっていった。これがブレイクだ。

山田君 はあ。

博士 ここでブレイクするのに重要な事が2つある。

1 環境の中に多様性(ダイバーシティ)があったこと
2 環境の中に空きスペースがあったこと

空きスペースにハマればブレイクする

空きスペースにハマればブレイクする

1つ目に関して言うと、6500万年ほど前に落ちた隕石ではたまたま哺乳類が選ばれたが、ある環境の変化では鳥類だったかもしれないし、両生類だったかもしれない。重要な事はさまざまな種が1つの環境の中にいることだよ。これを多様性と言う。

もう1つは、空きスペースがあることだ。
恐竜がいなくなった空きスペースに、哺乳類は広がっていった。
これをテレビタレントで言うなら、世の中は常に目新しいものを探している。テレビはその最たるものだろう。

テレビにおいて古くて飽きられたものは、実は空きスペースそのものだ。そこに目新しい何かが現れるとブレイクが起こる。ローラもスギちゃんも、戦場カメラマンもマツコ・デラックスも、ブレイクする人たちは、視聴者にとってこれまでになかった目新しいキャラクターで、芸能界で飽きられた古い人たちに取って代わってその場所に居座る

たとえば、スギちゃんは、飽きられた楽しんご、ローラは、飽きられたマリエのスペースを埋めたのかもしれない。

山田君 商品やサービスは、どうなんですか?このご時世、空きスペースなんてありますかね?

博士 いくらでもある。技術革新などにより、これまでに取って代わる便利なものが生まれれば、それは空きスペースだよな。古くはマッチからライター、ガス釜から電子ジャー。

FacebookやTwitterも空きスペースに?

FacebookやTwitterも空きスペースに?

今で言えば、スマートフォンがそれだろう。またスマートフォンが流行り、ガラパゴス携帯が衰退すれば、スマートフォンと関わるものが空きスペースになるし、ガラパゴスと関わっていて一緒に消えたものが空きスペースを作る。

ほかにも、新しい法律が世の中で施行されたり、経済状況が大きく変わったりすることでも生まれる。大震災のような環境の変化も空きスペースを作っただろう。

アイデアで言えば、別分野から新しいアイデアがやってくることも多い。たとえばDNAの2重らせん構造を発見したワトソンとクリックのクリックは生物学者ではなく、物理学者だ。クリックは生物学に転向して、わずか6年足らずで世界的な論文の著者となった。

また100年間解けなかった数学上の難問”ポアンカレ予想”を解いた数学者グリゴリー・ペレルマンは、ポアンカレ予想が属する分野であるトポロジー(位相幾何学という幾何学の一種)ではなく、微分幾何学と物理学の手法を使って解いている(wikipediaより)。

これらは、生物の進化で言えば、隕石の衝突に相当するし、これまでに無い環境に生物が移動した時に起きるブレイク、たとえば天敵がいないために外来種が異常に繁殖したりするのとよく似ている。

山田君 つまり、環境が大きく変わった時に、その環境に合うことをしていたか、あるいは、停滞していた分野に、全く違う分野から新しく来たことで、ブレイクするってことですね?

博士 そうだ。これを逆手にとると、僕らがブレイクしたいと思うなら、自分にとって当たり前でないことや普段しないことをすること。その分野で当たり前になっていないことをすること。あるいは、自分の専門や特技が、全く新しいと思われる分野に移動することとなる。

山田君 それっていったい何をすればいいんですか?

博士 そう。何が空きスペースで、何が新しいかなんて誰も知らない。芸能界において、「舌出し」が新しいなんて誰が気づいただろうか? ローラも、スギちゃんも、戦場カメラマンも、マツコ・デラックスも、物理学者クリックも数学者ペレルマンもたまたま当たったに違いない。

だからランダムウォーク、つまりデタラメに歩く必要がある。

アップルの設立者スティーブ・ジョブズ 10年も前に学んだカリグラフィーが蘇ってきた

アップルの設立者スティーブ・ジョブズ 10年も前に学んだカリグラフィーが蘇ってきた

自分にとって決まりきった行動や、決まりきった行動範囲で動いているうちは、環境が大きく変わらない限り、ブレイクは見込めない。自分の決まりきった行動をするのではなく、ランダムに動くことで、道が開かれる

山田君 なるほど~。

博士 先日亡くなった、アップルの設立者スティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式でスピーチをした内容が印象的だ。

スティーブ・ジョブズはリード大学に入学したが、わずか半年で退学してしまう。しかし、その後18カ月も大学に居座って、興味のある講義、カリグラフィー(西洋の書道のようなもの)を学ぶ。彼はこのカリグラフィーを「自分の人生で実際に活用する見込みはなかった」と言っている。しかし「10年後、最初のマッキントッシュを設計しているときにそれが私に蘇ってきた」と言っているんだ。

また、知っての通り、彼はアップルをクビになるが、その結果トイストーリーを作ったピクサーを起業し、妻となる女性と出会い、最も良い形でアップルに戻っている。

富士フイルムのスキンケア化粧品「アスタリフト」シリーズのCMで共演する小泉今日子(左)、松田聖子

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital  富士フイルムのスキンケア化粧品「アスタリフト」シリーズのCMで共演する小泉今日子(左)、松田聖子

彼はそのスピーチの中で言っている。「先を見通して点をつなぐことはできない」と。アップルブレイクの裏には、ランダムウォークがあるってことだな。

また、5月10日に放送されたテレビ東京の『カンブリア宮殿』が興味深かった。
そこではデジタルカメラ普及により、写真フイルム会社、コダックが経営破綻をする一方、富士フイルムが何故生き残ったかについて語られていた。

富士フイルム・ホールディングスの代表取締役社長、古森重隆は、富士フイルムが生き残った理由として、産業材料(物を作る素材)が豊富にあったことを挙げている。一方、コダックはフイルム事業に固執し、あまり新しい産業材料を作りだしてこなかった。富士フイルムは、自社にあるさまざまな産業材料と世の中のニーズを見比べ、全くこれまでした事ない事業に繰り出していった。その結果、コダックは滅び、富士フイルムは生き残った。

たとえば、富士フイルムは、化粧品で一定の成功をしている。

山田君 写真フイルム会社が化粧品ですか?

博士 そうだ。富士フイルムはこれまで写真フイルムの研究において、微粒子をコントロールする技術、コラーゲンに関する技術、抗酸化剤の技術があった。実はそれが、たまたま化粧品の研究にも使えることに気づいたらしい。

もちろんそれは、富士フイルムのさまざまなランダムウォークの1つに過ぎない。

山田君 なるほど。ということは、僕も何でもいいからとにかく思いついたことをやってみればいいわけですか?

スギちゃんもブレイクするまで手当たり次第、挑戦していた

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital  スギちゃんもブレイクするまで手当たり次第、挑戦していた

博士 それはそうなんだが、ランダムウォークを成功させるにはいくつかのコツがある。ここを押さえておかないと、単なる悪あがきになりやすい。そのコツとは次の3つだ。

1 長期的にやり続ける
2 失敗しても良いから色々試す
3 流れが来たら乗ってみる

1、2の良い例は、それこそスギちゃんだな。今、「ワイルドだろ~」でブレイクしているスギちゃんだが、このキャラを始めたのは最近だ。彼はもともとコンビとしてお笑いデビューし、その後ピン芸人になって様々なキャラクターを作ってきた。さらに、競馬雑誌で配当金のみで生活する企画にチャレンジしたりもしている。手当たり次第、色々なネタをやってきて、「ワイルドだろ~」でブレイクしたわけだな。

山田君 芸歴18年の歴史は壮絶ですね。

博士 富士フイルムもそうだ。カンブリア宮殿で古森重隆社長は、「新しいことをするのはお金がかかるし、利益率が減る。また時間がかかるのに、すぐにリターンがない。そして経営者は株主などに目先の利益を強く求められる傾向にある」というようなことを言っていた。こうした環境下でもチャレンジし続けなければ企業は成長しないし、破綻してしまうと彼は知っていて、行動し続けたと言うんだ。

2002年からデジタルカメラの普及により、写真フイルム業界は滅び行く生物種となった。コダックは滅びてしまったが、社内に多様性をもち、収益性のあるうちにランダムウォークをした富士フイルムは、生き残るどころかブレイクした、ということだ。

塩谷瞬を「アホでバカな男だと分かっていた」と一刀両断する園山真希絵

©2012 The Sankei Shimbun & Sankei Digital  塩谷瞬を「アホでバカな男だと分かっていた」と一刀両断する園山真希絵

仕事は楽しいかね?』という、発売から10年経ってなお売れているビジネス本の名著がある。この本は「目的を設定しそれにまい進する方法」を説く、これまでの成功哲学本に対し、「目的なんてどうでもいいんだ。何でもいいから試すことが大事なんだ」と説いた画期的な本だ。富士フイルムは、まさにこの本で言っていることを実践した企業と言えるだろう。

山田君 なるほど。

博士 そして流れが来たら乗る。富士フイルムもアップルもそうだな。タレントで言えば、今最も「乗っかって」いる人は、園山真希絵だろう。

山田君 塩谷瞬に二股をかけられていた料理研究家の人ですね。おとなしそうな人で気の毒だと思ってたんですが、『金スマ』で堂々と塩谷瞬のことを話していて驚きましたよ。

博士 彼女の本は今、アマゾンランキングで軒並み急上昇している。
たまたまつき合った男に二股されて、それがきっかけで一躍脚光を浴びるなんて、まさにランダムウォーク的だ。

山田君 二股の情報は彼女が流したなんて噂もありますけど……。

博士 そうだとしても、発端は塩谷瞬と冨永愛がフライデーに撮られたことだからな。これは園山真希絵には予測できない。思いもよらない流れが来たところに躊躇せずに乗ったわけだ。彼女のこの姿勢には賛否両論あるかもしれないが、ビジネスとして見れば正しいんじゃないかな。

山田君 僕は正直ちょっと園山さんに引いてたんですが、ビジネス的には成功ですよね。本が売れまくってるわけですから。

ひとつのことだけを続ける?それとも、たくさんのことに挑戦すべき?

ひとつのことだけを続ける?それとも、たくさんのことに挑戦すべき?

しかし、今回の話は前回と矛盾してませんか?前回は「ひとつのことを続けなさい」っていう話でしたよね。今回は「たくさんのことをやれ」っていう。

博士 一見矛盾して見えるかもしれないが、この2つの考え方はそう遠い所にはない。
その理由を説明しよう。

1つは、塩谷瞬も、スギちゃんもある面で見れば、ひとつのことを続けている。そして色々なところに手を出しているという視点では、ランダムウォークをしているとも言える。アップルも、富士フイルムもそうだ。

もう1つは、ひとつのことをずっと続けていても、環境そのものはランダムウォークをしている。ある時流行ったものが、ある時に廃れたり、あるいは隕石の衝突のような劇的な変化が環境に起きたりする。つまり自分が同じことをしていても、環境がランダムに変わっているということだ。一方、環境が何も変わらないなら、自分がランダムに動くことで世の中の空きスペースに広がることができる

ようは、世の中の空きスペースと、自分が持っている何かがマッチングすればブレイクするってわけだ。そのマッチングをいかに効率よく行えるかがブレイクを考える上での基本だ。

山田君 なるほど。じゃあ「ひとつのことを続けること」と「ランダムウォーク」、どっちがいいとかあるんですか?

博士 先週も言ったが、現時点でブレイクの気配が感じられる”ヒヤリ・ハット”的な何かがあるなら、それを続けること――つまりひとつのことを続けることに、多くの力を注いだ方が良いだろうな。

塩谷瞬や、スギちゃんのように、ひとつのことを軸に色々なことをするのも1つの考え方だ。逆に、今”ヒヤリ・ハット”的な何かがなく行き詰まっているなら、ランダムウォークをした方が良い。

アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏

アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏

山田君 何もない僕はとりあえずランダムウォークですか。
よし、僕もジョブズにならって会社を辞めて、興味があることを片っ端からやりますよ!

博士 それはやめておいた方がいい。ジョブズはたまたまうまくいったが危険な賭けだし、彼が大学を辞めたのは20代と若い。30代の君が真似するのはヤバすぎる。
以前も言ったが、ランダムウォークはたいてい失敗する。「たまたま」の成功を狙うものだからな。だから、安定しているものがあるのなら、それは続けつつ、自分が破綻しない範囲で色々試すのが定法だ。
ローラだって、本業の雑誌モデルは続けながらテレビに出てるだろう?

山田君 ローラも舌を出しながらちゃんと考えているんですねえ。
じゃあ僕は今の仕事を続けつつ、ランダムウォークに力を注ぐのが良いと。頑張りますよ!目指せ、ジョブズ!目指せ、ローラ!目指せ、スギちゃん!

博士 そうやって並べると、どれかにはなれそうな気もしてくるな。

山田君 流れに乗るという意味では、もじゃもじゃ頭を活かして、ハーフっぽい外見にするのもいいかもしれませんね。

博士 それはまたずいぶんとランダムウォークだな。

ブレイクは思いもよらないところで起こる。今なにも当たりそうなものがないなら、ランダムウォークを続けることがキーになる